禅フォトギャラリーは、6月1日から6月25日まで「町へ出よう!」と題し、8人の写真家によるモノクロームのストリート・スナップのグループ展を開催いたします。昨年からの新型コロナウイルス感染拡大により、私たちの生活環境は一変し、感染防止のための自粛生活をいまだに強いられています。しかし、パンデミック下の不自由さを通じ、私たちが外界との直接的な接触をこれまでいかに無自覚に享受していたかを知ることにもなりました。少しずつ手探りで現実世界に向けて行動を再開し始めた現在の状況には、実感の手応えを求める人間の本能的な行動原理が見てとれます。スナップショットという手法を用い、町へ出て現実世界のイメージを切り取る写真家の行動にもそれは通底していると言えるでしょう。今回はそういった今の視点から既出の作品を見直し、新たに選出・構成したスナップショットの作品群を展示いたします。この展覧会が作品を見る側、見せる側、双方におけるエンパワーメントとなりますように、ぜひご高覧ください。

*会期を下記の日程に分け、それぞれの作家の作品を展示いたします。

前期(6/1-6/11):須田一政「網膜直結指先目カメラ」、田中長徳「Panoramic Photography Europe 1975」、有元伸也「Tokyo Circulation」、ジョン・サイパル「随写」
後期(6/15-25):土田ヒロミ「自閉空間」、西村多美子「続」、中藤毅彦「White Noise」、原田直宏「泳ぐ身体」

Artist Profile

須田一政

1940年東京生まれ。1967年から1970年まで寺山修司が主催した劇団天井桟敷の専属カメラマンとして活躍した。1997年に写真集「人間の記憶」で第16回土門拳賞を受賞した。主な著作は「風姿花伝」、「わが東京100」、「人間の記憶」、「民謡山河」など。

田中長徳

1947年、東京生まれ。日本大学藝術学部写真学科卒業。在学中より作品を雑誌やギャラリーで発表し、卒業後はウィーン、ニューヨーク、プラハに滞在して写真家として活動。カメラに対する造詣も深く、現在も専門誌へ多数執筆している。

有元伸也

1971年大阪府生まれ。1994年ビジュアルアーツ専門学校大阪卒業。1998年「西藏より肖像」にて第35回太陽賞を受賞し、翌年ビジュアルアーツより同名写真集を刊行した。2008年にTOTEM POLE PHOTO GALLERYを設立。2016年に『TOKYO CIRCULATION』を禅フォトギャラリーより刊行し、第26回林忠彦賞と2017年日本写真協会作家賞を受賞した。2019年には絶版となっていた『西藏より肖像』の新装版である『TIBET』を禅フォトギャラリーより刊行。その他の主な著作に『Tokyo Debugger』(2020年、禅フォトギャラリー)、『Tokyo Strut』(2022年、禅フォトギャラリー)、『ariphoto selection』No.1~10 (TOTEM POLE PHOTO GALLERY)がある。2017年にはパリのLe Plac'Art Photoで個展を開催、また2019年にはドイツのMuseum Bautzenでの3人展「Am Rand der Gesellschaft. Barlach – Springer – Arimoto」 に参加するなど国際的にも活躍している。

ジョン・サイパル

1979年、アメリカ・ネブラスカ生まれ。2004年、ネブラスカ大学を卒業後に来日し、2005年より写真展で作品を発表し始める。主な個展に“Nebraska, The Good Life”(2005年、ニコンサロン)、“The Different Between”(2007年、コニカミノルタプラザ)、“Gaijin Like Me”(2008年、ニコンサロン)、“195”(2010年、街道リボン)、“John Sypal Photographs”(2015年、横浜そごうライカショップ)、“An Endless Attraction”(2022年、ライカ銀座店)などがある。2010年にTotem Pole Photo Galleryへ加入、2012年より現在に至るまで「随写」シリーズとして定期的に作品を発表し、2017年に禅フォトギャラリーより写真集『随写』を刊行した。また、東京の写真文化を日常的に取材し、“Tokyo Camera Style”と題したブログやインスタグラムを通して積極的に発信している。このプロジェクトの内容は2015年にThames & Hudson社から刊行された写真集“Tokyo Camera Style”にまとめられた。

土田ヒロミ

1939年、福井県生まれ。1963年、福井大学工学部を卒業後、ポーラ化粧品本舗に入社し、静岡の研究所に勤務。翌年から東京勤務となり、東京綜合写真専門学校研究科の夜間に通って本格的に写真を学び始める。1971年、ポーラを退社し、以後フリーランスとなる。直後に浅草を撮ったシリーズ『自閉空間』で第8回太陽賞を受賞、同時に銀座ニコンサロンにて同作品を展示した。以降、数々の作品を発表し、日本を代表する写真家として活動する。1978年「ヒロシマ1945~1979」展にて伊奈信男賞、1984年「ヒロシマ」にて日本写真家協会賞、2008年「土田ヒロミのニッポン」で土門拳賞を受賞。

西村多美子

1948年東京生まれ、1969年東京写真専門学校(現東京ビジュアルアーツ)卒業。在学中に唐十郎率いるアングラ劇団「状況劇場」の舞台に通い、麿赤児や四谷シモンなどを撮影し、復帰前の沖縄へ初めての一人旅へ出る。卒業後、森山大道、多木浩二、中平卓馬というプロヴォーク運動で大きな影響力を持った3人と出会い、1970年まで暗室で彼らの制作を手伝う。1973年にそれまで北海道、東北、北陸、関東、関西、中国地方を旅して撮影したものをファースト写真集「しきしま」(東京写真専門学校出版局)として刊行する。

バイトや雑誌の仕事で旅費を貯め、1970年から80年代にかけて日本各地を旅し、また娘を連れて東京なども歩いて撮影している。1990年代以降は近代化画一化された日本を飛び出して、ヨーロッパ、南米、東南アジアなど海外を撮影した。

西村は写真を撮り始めた68年頃から現在に至るまで、半世紀を超える作家活動歴の間、一貫してフィルムで撮影し、自ら暗室でプリントを制作するという姿勢を変えていない。西村の写真は、詩的でスピリチュアル、そして深く個人的なものである。西村は自身のキャリアを振り返り、「旅の連続」と表現し、遊牧民のような人生観で写真を撮り続けてきた。旅が秘めているものを明らかにする彼女の写真は、旅先で出会う人生の多様な肖像である。

主な出版物に『しきしま』(東京写真専門学校出版局、1973)、『熱い風』(蒼穹舎、2005)、『実存1968-69状況劇場』(グラフィカ編集室、2011)、『憧景』(グラフィカ編集室、2012)、『しきしま 復刻新装版』(禅フォトギャラリー、2014)『猫が・・・』(禅フォトギャラリー、2015)、『舞人木花咲耶姫 — 子連れ旅日記』(禅フォトギャラリー、2016)、『旅人』(禅フォトギャラリー、2018)、『旅記』(禅フォトギャラリー、2019)、『続 (My Journey II. 1968-1989)』(禅フォトギャラリー、2020)等。香港M+美術館に作品が収蔵されている。

中藤毅彦

1970年、東京生まれ。早稲田大学第一文学部中退、東京ビジュアルアーツ写真学科卒業。モノクロームの都市スナップショットを中心に作品を発表し続けている。国内の他、近年は東欧、ロシア、キューバなど世界各地を取材。自身の作家活動とともに、四谷三丁目にてギャラリーニエプスを運営。2013年に「HOKKAIDO: Sakuan, Matapaan」にて第29回東川賞特別作家賞、2015年に「Street Rambler」にて第24回林忠彦賞を受賞した。主な出版物に『Enter the mirror』(1997年、モール刊)、『Winterlicht』(2001年、ワイズ出版刊)、『Night Crawler』(2011年、禅フォトギャラリー刊)、『HOKKAIDO: Sakuan, Matapaan』(2013年、禅フォトギャラリー刊)、『White Noise』(2018年、禅フォトギャラリー刊)などがある。

原田直宏

1982年、東京生まれ。2010年、早稲田大学芸術学校空間映像科卒業。2011年に新宿と大阪の ニコンサロンで初の個展「泳ぐ身体」を開催。2014年にBankART Studio NYK(横浜)にて開催された「Group exhibition vol.2 HAKKA」に参加し、同年禅フォトギャラリーで個展「泳ぐ身体」を開催し、同名の写真集を刊行。2016年には東塔堂「REMIXING GROUND 混在する都市 ヨハネスブルグ×東京」(Andile Buka と共同企画展)に参加した。2018年にカラーの新刊写真集『三つ目の部屋へ』を禅フォトギャラリーより刊行し、禅フォトギャラリー、梅田蔦屋書店などで個展を開催。2022年にはコロナ禍で制作した「Tokyo Fishgraphs | 2020」がLibraryman Awardを受賞し、同名の写真集を刊行するなど、国内外で活躍している。

Publications & Prints

随写

ジョン・サイパル