ひとと衣食住に割り込むことを拒否されて、それを取り囲むように叢がある。叢は、雪や雨や風や日の光に、その有様を変える。
 わらすこ(子供)たちは、山肌の斜面の雑木や叢でターザンごっこをやり。秋の名月(おめげっつぁん)には薄などを取りにいった。
 逆巻く毛っこ掻き分けて――蔦の覆った、その暗がりに心が落ち着いた。親に怒られたとき。挫折を味わったとき。アア、オイ(私)はひとりぼっちなんだと逃げた場所。恐ろしい場所。やがて叢の中の栗の香は大人になったことを知らせた。
 ひとと衣食住がそこにある前は、叢が在った。

― 橋本照嵩、あとがきより

Artist Profile

橋本照嵩

1939年宮城県石巻市生まれ。1963年日本大学芸術学部写真学科卒業。1974年、写真集『瞽女』出版(のら社)にて日本写真協会新人賞受賞。同年、荒木経惟、中平卓馬、深瀬昌久、森山大道らとともに「15人の写真展」(東京国立近代美術館)へ参加し「瞽女」を出品。作品は国立近代美術館へ収蔵された。1979年から1981年には韓国を精力的に訪れ李朝民画を撮影した。2011年に被災した故郷の石巻へ定期的に帰郷し撮影を続けている。近年は「瞽女」シリーズを中心に国内外を問わず多数の個展を開催しており、主なものに禅フォトギャラリー(東京、2020年)、池田記念美術館(新潟、2022年)、AN-A Fundación(バルセロナ、2023年)などがある。主な出版物に、『北上川』(2005年、春風社)、『石巻-2011.3.27〜2014.5.29』(2014年、春風社)、『西山温泉』(2014年、禅フォトギャラリー)、『新版 北上川』(2015年、春風社)、『叢』(2016年、禅フォトギャラリー)、『山谷 1968.8.1-8.20』(2017年、禅フォトギャラリー)、『瞽女アサヒグラフ復刻版』(2019年、禅フォトギャラリー)、『瞽女』(完全版、2021年、禅フォトギャラリー)、『石巻 1955.6-1969.5』(2023年、禅フォトギャラリー)などがある。

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