2020年に開催されたTokyo Photobook Reviewにて選定され、コロナ禍を経て2023年に刊行された本書は、写真家の五十嵐航がインドの中央部とデカン高原周辺に点在する、人を癒すといわれる特別な磁場のある聖廟に集まる人々を足掛け9年間にわたり撮影した作品である。

「2011年初頭。
僕はインド郊外の聖廟で軒下を寝床に滞在していた。街中で滞在していた宿泊先オーナー夫人が突然、気が触れた様に喚き声を上げ始め、人づてに聞いた障害や問題を癒すと云われる強力な磁場を保つ聖廟へ僕を帯同したからだ。
電車とバス、タクシーを乗り継ぎ500km以上を移動し辿り着いた磁場には100人程の信者が寄り添うようにテントで暮らしていた。障害や精神的問題を抱える群衆のトランス状態の祈りは僕に恐怖を植え付け、カメラを取り出せずに只モンモンと食事の手伝いをしながら一週間が過ぎていた。共に生活をしながら徐々に打ち解け合い、やっとカメラを取り出してから、コロナが世界中を席巻するまでの足掛け9年間、延べ400日以上を僕は計5箇所の聖廟で過ごしてきた。
それらの場は、説明のつかぬ言語世界以前の、僕の内に眠るであろう潜在意識を刺激し続け、見えぬ存在を信じ切る彼らとの生活は不思議な懐かしさも感じさせた。」
― 五十嵐航

「Spiral Codeにおけるイメージは時間の円環的概念、つまり一生涯という一瞬で過ぎる時というより、一時代を語っているのである。これらの写真は中央インド数カ所で10年間にわたり撮られたものであるが、年代または地理的位置の感覚はほとんど感じられない。これらの写真に映し出されているのは、人里離れた地にある、地球が持つ磁場を活かした大地によるケアを求めにきた人々である。精神的または肉体的障害のため除け者と扱われることが多い彼らは、癒しを求めてこの大地に向かうのだ。この自然観とその中での私達の位置付けは、時間のそれと同様に、西洋の二元的な構想とは違う。ここでは、生まれたもの全ては死に、死んだものは全て別の形で再生される。」
― マーク・フューステル(ライター、エディター、キュレーター)

-判型
250 × 210 mm
-頁数
92頁、掲載作品:64点
-製本
ソフトカバー
-発行年
2023
-言語
英語、日本語
-エディション
350

Artist Profile

五十嵐航

フレンチシェフ、シルクスクリーン職を経験後、フォトジャーナリストの福島菊次郎から暗室等の教えを受け写真を始める。1998年より商業写真職を経てフリーランスとなり、国内外の都市と土着を撮影している。2010年より障害や問題を抱える人々が集まるインドの聖廟を訪ね撮影を開始。2020年に開催されたTokyo Photobook Reviewにて選ばれ、2023年に『Spiral Code』を刊行した。

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