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写真家・西村多美子が今回出版する写真集は、彼女が写真を始めた1968年頃から80年代までに撮影された写真からセレクトした60点のモノクローム作品で構成されている。その中には今まで一度も公開されなかった未発表作も含まれている。列車の車窓から見た風景、港に佇む漁船、浅草の大道芸人、大雪に覆われる内灘砂丘、そして自身の自宅や近しい人たちの写真など。西村にとって、「旅」とはすなわちスナップショットのことであり、東京にいてもどこにいても常に「旅」という気持ちでスナップを撮ることである。出会う光景に淡々と向き合い、見つめ、そして暗室で現像する。このスタンスは数十年たった今もこれから先も変わらない。

― 出版社説明文より

「旅人」は1968年から1980年頃に撮影した1500枚ほどのプリントからセレクトしたものである。自分自身が生きてきた時間と空間が靄のように浮上してくるような思いがする。

撮影して、暗室でフィルムをリールに巻き、深バットでカタカタと現像する。ベタ焼きを作り、セレクトしてプリントする。これも数十年変わらない。現像液の中でじわっと像が現れ黒が締まってくる。撮影した対象物が暗室作業でどのように現れてくるのか、その時間と工程が好きなのだ。

フィルムが手に入る限り、写真はフィルムで撮り続けたい。

80年代、90年代、2000年から現在に至るまでを、「続・旅人」「あれからの旅人」・・・とつなげていこうと思っている。

― 西村多美子

Artist Profile

西村多美子

1948年東京生まれ、1969年東京写真専門学校(現東京ビジュアルアーツ)卒業。在学中に唐十郎率いるアングラ劇団「状況劇場」の舞台に通い、麿赤児や四谷シモンなどを撮影し、復帰前の沖縄へ初めての一人旅へ出る。卒業後、森山大道、多木浩二、中平卓馬というプロヴォーク運動で大きな影響力を持った3人と出会い、1970年まで暗室で彼らの制作を手伝う。1973年にそれまで北海道、東北、北陸、関東、関西、中国地方を旅して撮影したものをファースト写真集「しきしま」(東京写真専門学校出版局)として刊行する。

バイトや雑誌の仕事で旅費を貯め、1970年から80年代にかけて日本各地を旅し、また娘を連れて東京なども歩いて撮影している。1990年代以降は近代化画一化された日本を飛び出して、ヨーロッパ、南米、東南アジアなど海外を撮影した。

西村は写真を撮り始めた68年頃から現在に至るまで、半世紀を超える作家活動歴の間、一貫してフィルムで撮影し、自ら暗室でプリントを制作するという姿勢を変えていない。西村の写真は、詩的でスピリチュアル、そして深く個人的なものである。西村は自身のキャリアを振り返り、「旅の連続」と表現し、遊牧民のような人生観で写真を撮り続けてきた。旅が秘めているものを明らかにする彼女の写真は、旅先で出会う人生の多様な肖像である。

主な出版物に『しきしま』(東京写真専門学校出版局、1973)、『熱い風』(蒼穹舎、2005)、『実存1968-69状況劇場』(グラフィカ編集室、2011)、『憧景』(グラフィカ編集室、2012)、『しきしま 復刻新装版』(禅フォトギャラリー、2014)『猫が・・・』(禅フォトギャラリー、2015)、『舞人木花咲耶姫 — 子連れ旅日記』(禅フォトギャラリー、2016)、『旅人』(禅フォトギャラリー、2018)、『旅記』(禅フォトギャラリー、2019)、『続 (My Journey II. 1968-1989)』(禅フォトギャラリー、2020)等。香港M+美術館に作品が収蔵されている。

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