『塵』がここで示しているのは灰燼。「生命の輪廻では、全ては元来た場所へ回帰し、魂は魂をくださった神へと戻る。」

『塵』新版には、木格による2010年から近年までの同シリーズの新作が含まれています。「静物」、「山水」、「風物」の三つの部分の作品群によって構成された本書は、日常と自然の空間における万物の光景、その束の間の多様な変化を示しています。静的、または動的な時間の流れの中で、万物は風化し、朽ちる、または老化し、生長します。象徴的な意味を持つ松の樹幹が本の軸心となり、階段式の特殊造本に仕上げられた写真集を横に貫きます。時間の移り変わりとともに、写真が積み重なることによって生成されます。印刷プロセスでは、スミ、グレーのダブルトーンにグロスニス、特色ニスとマットニスを使い分けることで、木格の作品における様々な物象を繊細に表現しています。

「大型カメラを使って現在の故郷についての考察をあらためてした時、現実世界の全ては我々の心の中の欲望から来たことに気がついた。自然に憧れながら、自然を壊し、また自然を修復する。因果の輪廻である。(中略)これらの作品は、私個人の生活の時間から感じた認識である。または、自然における時間と歴史の痕跡、現実世界に対する今後への思考について表している。」— 木格

Artist Profile

木格

木格は1979年重慶に生まれ、現在は成都在住。ギャラリー木格堂創始者。2013年にアメリカの『PDN』雑誌による年度ベスト写真家賞を受賞、『IMA』に最も注目すべき70-80年代生まれの写真家として選ばれるなど、国際的に活躍している中国の写真家。

2005年から三峽ダムの建設工事によって変化していく故郷の風景や人々の様子を仔細に見つめ、カメラで記録する「回家(家に帰る)」シリーズを撮り始めた。その後、中国社会の劇的な変化によってもたらされた矛盾と無力感に直面し、木格は撮影技法と見方を再考した。大判カメラに換え、家で身近な静物をはじめ、自然環境の中に存在する様々な物象を観察するようになった。自然の中で山、水、石の3つが最も変化しにくい物質であることを発見し、時間と歴史が残した跡を見ることで、自然の根本への回帰をコンセプトとしたのが2010年から制作し始めた「塵」シリーズである。近年の新作「沿牆而行(壁に沿って歩く)では、2013年から2018年にわたり128,658キロを歩き、伝統的な定義で認識される長城境界の内外地域を経由し、中国北部の村を訪ねた。万里の長城の遺跡を撮影し、それを記号的なイメージに置き換えて、現在の中国という「家」の定義について探究した。木格が長期的に関心を持ち続けてきた「家」というテーマは、個々が住まう本来の環境から中国全土からなる「大家」へと、彼自身がそこに反映されることにより徐々にその対象を拡大している。2019年からは、木格が企画者として写真家の馮立、張克純と共同で「洄流(引き波)」プロジェクトを展開している。中国の都市を洄游し、現地制作、展示と出版を通じて、いまの中国の現状を反映する企画となっている。

木格の作品と評論は『ニューヨーク・タイムズ』、『ウォール・ストリート・ジャーナル』、『ル・モンド』、『中国撮影』など、世界中のメディアで発表されている。個展「沿牆而行」Format Photo Festival(イギリス・ダービー、2019年)、グループ展に「中國現代写真40年」深圳 OACT現代アートセンター(2018年)、北京三影堂写真アートセンター(2017年)、「浮世相-中國現代写真展」 Kunstraum Villa Friede (ドイツ、2015年)、「龍的崛起:現代中國写真展」Katonah Art Center(ニューヨーク、2012年)など、国内外で活動の場を広げている。主な出版物に『塵』(禅フォトギャラリー、2013年初版、2019年新版)、『回家』(假雜誌、2014年)。

Gallery Exhibitions